ART OF LIFE

高校生の頃まで死ぬほど好きだったXを、めっきり聞かなくなってしまった。
原因は色々。X以外の音楽もいいと感じられるように自分自身が変化したことが一つの理由ではある。でもそれ以上に大きい理由が、ある時からXを聞くことが妙に気恥ずかしくなってしまったこと。Xの音楽それ自体が恥ずかしいのではなく、Xを聞くことによって「四六時中Xばかり聞いていた高校生の頃の自分」が思い出されてしまい、気恥ずかしくなるというわけだ。
ART OF LIFE」という曲がある。XのリーダーであるYOSHIKIの半生をモチーフにしたというこの曲、何と収録時間は約30分。ある意味、筋金入りのファンではないと通して聞くのは不可能なのではないかという気さえしてくる。高校生当時、自分にはこの曲を寝る前に聞くという習慣があった。ベッドに入って、電気を消す。真っ暗闇の部屋の中で、「ART OF LIFE」は流れてくる。バラードでもなく、むしろハードロックなこの曲は、明らかに睡眠導入に適してはいない。それでも、しばらくの間、それは寝る前の習慣になっていた。幸か不幸か、高校卒業後には、そういう習慣はなくなってしまった。それ以前にXさえ聞かなくなってしまったのだから。Xから心が離れてしまうと、Xに夢中だった当時の自分が「若かったなぁ」と思ってしまうのである。
が、大学に入ってからも、ごくごく稀にXを聞き直すこともあったのも事実。特にアパートに高校の同窓生を招くような時にかけていたと思う。そんでもって「懐かしいなぁ。昔あれだけ好きだったのに、今じゃもうほとんど聞かなくなっちゃったよ」とか言いながら。
一人でいる時にも、再びXを聞きたいという衝動にかられることが時々あった。一年のうちに何度かあった。でも、それがどういう時だったのかは、覚えていない。ただただ無性にXを欲してしまうのである。
つい最近のことだ。同居人のOさんと話しをしていたら、どういう流れからかXの話になった。彼に言った。「部屋が隣だからわかると思いますけど、僕、たまにX聞いてることありますよね?」。すると彼はこう返した。「うん。でも、そういう時って、渡辺くんがどん底の時だよね」。言われてみてハッっとした。自分じゃ気付いていなかったけど、客観的に見て自分が「どん底」の時にXを聞いているらしい。
実はここ数日、「Xを聞きたい病」が再発している。でも、今回なぜそうなっているかは自分でも原因がわかっている。確かに進路に対する迷いや不安で、気持ちがゆらゆらしていることも事実。それでも一応前を見据えながら着実に動いてはいるので、別に「どん底」にいるのだと自分では思わない。原因はまた別のところにある。
繰り返すが、原因はわかっている。原因となっている問題と直に向き合うために、今はXを聞いて自分を盛り上げようとしているのだと思う。そう、得意の「自己暗示」を使って。